1.「バンドとシーケンスの同期(“打ち込み”入門編)」
2.「実践的な“打ち込み”システムの構成とその問題点」
3.「一応完成版 “打ち込み”システム」
今回は、実際ライブで“打ち込み”を使うための、機材の準備からセッティング、演奏までを見ていこうと思います。
まず、PCベースにするかMTRベースにするかの選択がまず必要となりますが、今回はシンプル構成で誰にでも構築しやすいMTRベースで組んでみました。

必要機材
・MTR
それほど高性能なものは必要ありません。オケ用のステレオトラックとクリック用のモノラルトラックがパラレルで再生できればひとまずはOK。
曲の入れ替えは、MTRのソングデータごと行ってもよいし、一つのソングデータに複数の曲を入れておきマーカーで制御する方法でもよい。
参考機器:KORG D888
5万弱で買えるMTRの中では最も優秀な機種の一つ。特にラインアウト8系統、ヘッドフォンアウト2系統と価格の割に出力系が充実しているためにほかにミキサーなどを用意しなくてもよいことは非常に評価できる。WAVでデータが扱われUSB接続できるためにPCとのデータ連携もスムーズ。

・ヘッドフォン
これまた高性能なものは必要ありません。あえてポイントを挙げるとすれば耐久性重視です。
使い方として、ステージ上の音も聴かなければならないので、ヘッドホンは片耳はずして使用します。また、密閉型であることが望ましいです。オープン型はクリック音が漏れ非常に興ざめだからです。
参考機器:SONY MDR-CD900ST
誰もが知っている定番ヘッドフォン。価格、クオリティ、耐久性を考えるとこれがベストか。イヤーパッドはもちろん、ドライバやハンガーも交換部品が流通しているのも良い。

MTRの準備
MTR上のトラック割りはこんな感じでしょうか。
トラック1:オケ(L) → MainOut(L)へ
トラック2:オケ(R) → MainOut(R)へ
トラック3:クリック → PhoneOut(L+R)へ
オケは曲ごとの音量バランスなどに特に注意。PA側の負担を軽くすることで、イメージに近いバランスの前音を作ることが可能です。
クリックはシンセ等を使って作ればよいと思いますが、周波数が程良く高い電子音の方がステージ上では聞き取りやすいです。また、プリカウント2小節とってあるとタイミングがつかみやすいです。
ステージセッティング
基本的にドラマーがオペレーションするので、ドラムセット横にラックを置いて、オペレーションやドラム演奏に支障がないか確認します。ライブ中にケーブルをひっかけてヘッドフォンが飛んで行ったなんてシャレになりませんからね。
配線はMTRのMainOutから、PAが設置したDIやコネクターボックス(マルチボックス)にケーブルを突っ込むだけです。ラインレベルの出力であれば特に問題になることはないでしょう。バランス接続できればモアベター。
また、ドラムの周りには電源をとるものがないこともあるので、電源タップなどをひとつ用意しておくとよいかもしれません。
リハ
PA側からするとほとんどキーボードと同じ扱いなので、特にトラブルもないかと思います。
通常の音量やバランス確認に加え、クリックの音量などもここで調整。シンセもそうなのですが、PAに依存する部分が大きいので、メインのPAさんやモニター担当の方と綿密にやり取りを行えば、イメージ通りの前音/内音にしてくれるはずです。
ライブ中のオペレーション
MCや前曲との合間を見ながらMTRの操作をします。曲を間違えないように、入るタイミングを間違えないように慎重に。もう5,6年前の話ですが、私は入るタイミングを誤って演奏とめたことあります。。。本当に痛いです。。。
問題点
さて、ここからがいよいよ“打ち込み”の肝になります。
このような形でオケを作れる人がいれば意外と楽に“打ち込み”は実現できますが、独特の問題点が多数あります。
まずは、“打ち込み”のキーパーソン、ドラマーに降りかかる問題にスポットを当ててみましょう。
ドラマーは通常自分自身でリズムやテンポをキープしますが、“打ち込み”を使う場合は外部のクリックに合わせることになります。
練習でこそクリックを聴きながらということはやりますが、ライブでこれを行うとどうなるか。慣れないうちは非常に無機質な叩き方になることは間違いありません。エモーショナルな演奏となるとちょっと程遠いでしょう。気分的にもそうですが、あまり動くとヘッドフォンが転げ落ちるかもしれませんし。
ちょっとしたミスでテンポが狂った際の修正も独特の難しさがあります。たとえばフィルで1/32遅れたとしましょう。クリックなしならそのまま続ければよいのですが、クリックありだとどこかで1/32ぶんテンポを速くしなければクリックとずれたままになります。差が小さければ簡単に戻せますが、1/16以上になると非常に難しいです。また、クリックを見失った場合のリカバリも同様にテクニカルです。
クリックを片耳で聞くということも問題があります。
ステージ上は結構な音量で各楽器が音を出しているので、片耳だけで音をとらえることが非常に難しいのです。電車やバスの中で、片耳のみヘッドフォンをつけてmp3等を聴くとこのことがよくわかります。
では両耳でクリックを聴けばよいという意見もありますが、これではクリック以外の音がほとんど聴こえなくなります。ちょうど手で耳をふさぎながら演奏しているような感じです。輪郭のない音を聴くことは、演奏精度や精神的な部分に大きく影響を与えます。
致命的なのは自分のドラムの音さえうまくきこえないということ。これではまともに叩けるはずもありません。
バンド全体としてはどうでしょう。
“打ち込み”が入るということは、実質1パート増えるということで、バンドの表現力は高まりますが、トラックメーカー、機材の保守管理、準備、運搬などメンバー1人あたりにかかるコストが高くなります。
単にオケを流すためだけにこれだけのコストを払うのはある意味非効率なのです。
さて次回は最終回となりますが、これらの問題を一気に解決する「俺流システム構成」を紹介。別にあっと驚くようなことはやっていませんが、数年のノウハウの集大成。きっと何かの役に立つはず。全国のバンドメンに送る貧乏人による、金持ちのためのシステム。とくとご覧あれ。
1.「バンドとシーケンスの同期(“打ち込み”入門編)」
2.「実践的な“打ち込み”システムの構成とその問題点」
3.「一応完成版 “打ち込み”システム」